使いつづけるうちにどんどん愛着が増すような、長く愛される建物を設計することを目指しています。
いうまでもなく、建物はそこに居る人の生活の器です。
そして人も生活も一時として同じということはありません。
1日、1年、10年、それぞれの長さで、時間とともに常に変化しつづけるものです。
建物はそういった時間の流れに耐えうるものでなければ意味がありません。
現在の日本の住宅の多くが、物理的にはまだまだ使えるにもかかわらず、20年~30年で取り壊されてしまうのはなぜでしょうか。
消費財のようにあつかわれ、使い手の要求に合わなくなれば壊して新しく建て替える。
もちろんいろいろな原因がありますが、ひとつには建物にそれだけのエネルギーがないから、そして何より私たちが建物を「その程度」のものとみているから、というのも理由のひとつではないでしょうか。
そうではなくて、手入れして使いつづけたいと思えるような、長く愛される建物であれば、地球環境負荷を減らすことはもちろんですが、何よりも毎日の暮らしがより楽しく豊かになると思うのです。同時に、そういった時間のつみ重ねを大切にする気持ちこそが文化なのではないかと考えています。
「第一の皮膚としての身体と、第二の皮膚である衣類の延長上に「第三の皮膚」である住まいがある」
環境先進国ドイツのバウビオロギー(建築生物学)というエコロジー建築の考え方です。
身のまわりが何で囲まれているかがいかに心身に影響を与えるかは、
どなたでも多少の差はあれ日々実感されることだと思います。
真夏の容赦ない太陽に照らされたアスファルトとビルの間で息絶えそうになりながら、
ようやく公園の木陰にたどりついたとき。
開け放した窓からの風を感じつつ、タタミに頬をつけたままうたた寝するとき。
そういう素直な身体感覚を大切にしたいと思っています。
建築素材は、できる限り以下のような基準に照らして選択しています。
・資源が枯渇することのない再生可能な素材であること。
・化学物質を含まない素材であること。
・調湿性能の優れた素材であること。
・空気中の汚染物質を吸着する素材であること。
また、快適な「第三の皮膚」を設計するにあたっては次のようなことを大切にしています。
・風の通り道をつくる。
・冬の太陽を味方にし、夏の太陽を遮蔽する。
・敷地の緑化を建物と一体的に計画する。
・建物の配置と開口部の位置、大きさ。
・断熱性能。
これは難しい言葉です。「豊かな空間」というときの「豊か」ってなんでしょうか。
もちろん、高価な材料を使っているとか、ただ部屋が広いとか天井が高いとかいうことではありません。
いろいろな考え方があると思いますが、私は「ひとつの結論がたくさんの意味を包み込んでいること」だと解釈しています。「豊かな地球」や「豊かな生態系」といったときに意味する「豊か」と近いです。
建物はひとつの結論です。いろいろな要因をつきつめて、導きだされたひとつのかたちです。
私が考える「豊かな空間」というのはたとえば次のようなことです。
ひとつの場所が時間や季節や角度や人によっていろいろな表情に見えること。
ひとつの場所がいろいろな機能を持っていること。
重なり合ったたくさんの空間のひろがりやまとまりがあること。
なんだかわかりにくいかもしれません。
言い方を変えれば、そこに居て居心地がよく、居場所がたくさんあり、そして飽きない、楽しい、そんな建物になるように心がけています。
「その場所がそんなに美しい場所だったとは、そこに建物が建つまで誰も気がつかなかった」
というとても印象的な言葉があります。
恐縮なことに出典がうろ覚えなのですが、建築家フランク・ロイド・ライトの言葉だったと記憶しています。
建物は、例外もありますが、基本的に土地の上に建つものです。
その場所の気候や自然環境はどんなものか。
どんな文化や習慣のあるところなのか。
その土地は木々に囲まれているのか、
崖の上なのか、密集した住宅地なのか、どんな建物に囲まれているのか。
そういった場所の特性によって当然どんな建物がふさわしいのかは変わってくると考えています。
建物を使う人、そして通りかかった人からも
冒頭のような言葉がきけることを目標に設計に取り組んでいます。